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怪談SS~
 というわけで、ちょいと何かに突き動かされるが如くに。
テーマは幕末。
あの大いくさならば、兄妹も仕事してたでしょうということで。
しかし規約だのなんだのが変わって、他人視点のシチュノベとか頼めなくなっちゃったので、自分で書くしかないのですなー。
こういうのをモロクっちさんにお願いできていたら、どんなすごいのができてたんだろうとか思うと、てらが恨めしい。
タイトルをまたモロクっちさんに倣ってつけようかと思ったのですが、思い当たる短歌や和歌を探せず(をい、国文科!)。
無題になってしまいました。


 それを彼は、幻だと思い込もうとした。
戦場へと向かう緊張と高揚がもらたした幻覚なのだと。
でなければ、あまりにも不吉すぎるではないか。
 後の世で、江戸時代と明治時代と呼ばれる、その区分のぎりぎりに彼は立っていた。
当事者である彼がそんなことを知るわけはないが、今この国を覆いつくす変化の兆しは、否が応でも感じずにはいられなかった。
このいくさに徳川が負ければ、かなり大きく世は変わるだろう。
とはいえ勝ってもまた、世は変わる。変わらざるをえまい。
そんな合理的な理由で。
そこに情緒の入り込む余裕はなかった。
しかしこの幻覚は、いささか彼の心に迷いをもたらした。
……そうだろう?
どうやら人目には見えていないらしい人物が2人、2人もこの戦列にまぎれこんでいるだなんて。
いやこの場合、紛れ込んでいるという言い方もおかしい。
あきらかに他と違う姿、行動をしながらも、見えないから行列は乱れない。
 片方は六尺豊かな青年。
読み本の中の戦国の世でも、ここまでも武者ぶりのものはそういるまいと思わせる偉丈夫。
もう片方は十をいくつか出た、まだまだ幼い少女。
青年とは兄妹なのだろう、眼差しが似ているが、こちらは少女らしいたおやかな体つきだ。
十二単に包まれていてもわかるほどの。
そう、少女は十二単を纏い、青年は……こちらは、素襖を着用している。
読み本どころか、まるきり源氏物語の時代の官女と北面の武士だ。
が、あまりにも場違いが過ぎる。
ここは芝居小屋でも、見世物小屋でもない天下の道。
しかもこれより死地へと赴く軍勢の、そのまっただなか。……ありえない。
 兄妹はなにやら、あちらこちらへと行きながら、帳面と、そこにいる者たちの顔を見比べ、あるいは見定めている様子。
やはりこれは、心の弱さの見せる幻。
彼は一心にそう思おうとした。
……ああそうだ。軍勢はどんどん前へ、血気に走って先へ急ごうとするようにかろうじて歩きと呼べる範囲の速度で進んでいるというのに、兄妹は足を動かす様子がほとんど見られない。
それなのに、遅れる様子を欠片も見せない。
ばかりか、この込み合った中で前へ行くも後ろへ戻るも自在なのだから、……ありえない。
 名前を呼ばれた気がして、彼は反射的に顔を上げようとした。
しかし、呼んだ声はこの場に似つかわしくない少女のもの。
親しみなど欠片も込められてはいない、まるで品番を読む如き口調。
返事をしてはならないと、本能が教えるまま彼は姿勢を必死で保った。
これは、きっと反応してはならないたぐいのものなのだ。
何度か名前を呼ばれるたびに肌を粟立てながらも、彼はなんとか無視してやりすごした。
呼び声が聞こえていることにも、気付かれてはならない。きっと。
 そのうち名前を呼ばれることはなくなったが、兄妹の姿は変わらず視界のなかにある。
と、彼は気付いた。
列の中に、ふと視線を彷徨わせるものがいる。
そしてその人間の所へと兄妹のどちらかが近づいて、顔を確認しているのだ。
声こそ彼には聞こえないが、おそらく自分の時と同じように、呼ばれているのだろう。
 ふと、妹の方が彼へと近寄ってきた。
「ああ、兄様、こんなところに」
自分の名を呼んだ声と同じだった。
ああしかし、足を止めることも、少女から目をそらすことも、おそらく許されまい。
気付かれてしまう。
彼の目の端に、兄の着衣の色がちらついた。
今彼は、人ならざる兄妹に挟まれるようにして進んでいた。
ここにいたってなお、この2人を幻だと思い込めるほど、彼の心は強くも固くもなかった。
それでもできれば、幻であってほしいと思わざるをえなかった。
彼の顔を覗き込んだ少女の目は西洋人のように青く、また西洋人にもありえない青であった。
この目と視線をあわせてしまえば、きっと生きた心地などすまい。
あれをきっと、この世ならざる色というのだ。
顔は焦点をあわせることができないから、造作を覚えてはいない。が、あの色だけでもうたくさんだ。
今は彼の後ろにいるらしい青年も、きっと同じような目でこちらを見ているに違いない。
妹と色は違っていたとしても、やはりこの世にありえない色の目で。
蛇に睨まれたカエルという言葉が彼の頭の中をよぎったが、彼の場合金縛りにかかっているのは心だけ。
頭はそんな言葉を思い出せる程度には働いているし、体は戦場への道行きを相変わらず進み続けている。
「ふむ」
 青年が口をきいた。重低音のささやき。
「載ってはいるが、いらえはないか」
彼はどれだけ悲鳴を上げたかったか。しかしそんな重いとは裏腹に、喉は引きつって逆に動かすことはできない。
今動き続けているものしか、動かせない。
「まぁ、良いとしよう。なにしろ数が数だ。細かい所は他で調節がきく」
ぱたんと青年が帳面を閉じた。
「……それでこいつが運がいいかは、わからんが」
「ふぅん」
「今回ばかりはな」
「兄様、まつりごとが変わるの?」
「おそらくは、まつりごと程度ではおわらんだろう。では、帰るとしようか」
やっと、いなくなる。
ふわりと、空気が歪む。熱風が吹いた気がした。
一瞬で骨すら焼き尽くすような劫火からしか生まれないような熱風。
それにまざって、なにかひどく古風な香りがした。まるでその中にある本当の匂いを隠すように。
いや、そのすべてが幻覚。
彼の体には火傷ひとつ、ない。
2人が消え去って……ほっとできるはずなのに、できはしなかった。
行軍は止まることなく、彼の足も止まることは無い。
……歴史の変わり目に向かって。

あとがき
「彼」が「どっち」にいたかはあえて書いていません。
別の「どっち」の、どっちが幸運かはわからないように。
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【2007/12/08 15:23】 電網小話 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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    みかか
  • Author:みかか
  • ノホリと生きるネット中毒者。
    本を読んだり映画を見たりしてばっかりで、ネット外でも二次元にしか生きていないんじゃないかと思われがち。
    ……実際、それに近いです。

    なお、このページにおいてあるOMC作品(イラストやリンク先の小説)の著作権は株式会社クラウドゲート(旧名テラネッツ)および各作成者に、使用権はみかかに帰属します。
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